中小M&Aの実効手数料率——レーマン料率と中企庁データの差が示すもの

中小M&Aの手数料は「レーマン方式・5%から」と案内されることが多い。しかし中小企業庁の公表データを見ると、実際の報酬率(実効手数料率)は譲渡価額帯によって異なる構造を持つ。譲渡価額5,000万円の案件では中央値16.6%、1億円の案件では13.3%——レーマン料率5%を+3〜12pt上回る水準である。一方、譲渡価額5億円を超えるとレーマン料率にほぼ収斂する。最低手数料の存在と料率逓減の組み合わせが、譲渡価額帯ごとに実効料率を規定している。本稿では、中企庁アンケート387者とJMIリーグテーブル2024年度(成約実績あり829社)のデータから、最低手数料の業界分布と、それが中小M&A主流帯の実効料率に与える影響を整理する。1

中小M&Aの実効手数料率——譲渡価額帯ごとの構造

譲渡価額区分別の実効料率

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2は、譲渡価額区分別の報酬率(対価ベース)を公表している。2024年度のデータに基づく中央値は以下のとおりである。

  • 譲渡価額 5,000万〜1億円:16.6%
  • 譲渡価額 1〜1.5億円:13.3%
  • 譲渡価額 1.5〜2億円:10.1%
  • 譲渡価額 2〜3億円:8.3%
  • 譲渡価額 3〜5億円:6.1%
  • 譲渡価額 5億円超:4.3%

譲渡価額5,000万〜10億円の中小M&A主流帯のほぼ全域で、実効料率がレーマン料率(5億円以下5%)を上回っている。

レーマン料率との差

レーマン方式の料率逓減は、5億円以下5%、5〜10億円帯4%の標準形を採る(前編で詳述)。3 これと上記の実効料率を並べると、以下の差が見える。

  • 5,000万〜1億円:+11.6pt(レーマン5%との差)
  • 1〜1.5億円:+8.3pt
  • 1.5〜2億円:+5.1pt
  • 2〜3億円:+3.3pt
  • 3〜5億円:+1.1pt
  • 5億円超:-0.7〜+0.3pt(レーマン5%との差はほぼゼロ、レーマン4%との比較では微増)

中小M&A主流帯の大部分で、実効料率がレーマン料率を上回る構造が確認できる。

譲渡価額帯で構造が変わる

譲渡価額帯によって、実効料率とレーマン料率の差は明確に異なる。

  • 譲渡価額 5,000万〜3億円:最低手数料の影響が大きく、実効料率がレーマン料率を+3〜12pt上回る
  • 譲渡価額 3〜5億円:影響が漸減、実効料率はレーマン料率を+1pt程度上回る水準
  • 譲渡価額 5億円超:最低手数料の影響がほぼ消え、実効料率はレーマン料率に収斂

譲渡価額が大きくなるほど、実効料率はレーマン料率に収斂していく。このことは、中規模帯では最低手数料が実効料率を押し上げる役割を担い、大規模帯ではその役割が消えることを示している。

マイクロ帯の極端な例

参考として、譲渡価額500〜1,000万円のマイクロ帯では、報酬率の中央値が2022年度から2024年度まで50%前後で動かない現象が観察されている。中小M&A市場の主流帯ではないが、最低手数料の影響が極端に現れる象徴的な例として知られる。本稿の主対象は譲渡価額5,000万〜10億円の中小M&A主流帯であるため、マイクロ帯の詳細は扱わない。4

譲渡価額区分別の実効料率中央値とレーマン料率の比較
Fig.1 譲渡価額区分別の実効料率中央値(2024年度)とレーマン料率の比較

要点

  • 中小M&A主流帯(譲渡価額5,000万〜10億円)の実効料率中央値は4.3〜16.6%で、譲渡価額帯により大きく異なる
  • 譲渡価額5,000万〜3億円ではレーマン料率を+3〜12pt上回る
  • 譲渡価額5億円超でレーマン料率に収斂する
  • 譲渡価額が大きくなるほど、最低手数料の影響は漸減する

レーマン料率と実効料率の差は何が生むか

レーマン料率だけで考えたときの報酬額

前編で整理したとおり、レーマン方式の標準形は5億円以下5%、5〜10億円4%、10〜50億円3%の逓減構造となっている。譲渡価額1.5億円の案件にレーマン方式を適用すると、成功報酬は1.5億円 × 5% = 750万円となる。レーマン料率ベースの報酬率は5%である。

実際の報酬率は13.3%

中企庁データによれば、譲渡価額1〜1.5億円帯の実効料率中央値は13.3%である。1.5億円の案件で実効料率13.3%なら、報酬は約2,000万円となる。レーマン理論値750万円との差は約1,250万円、レーマン計算額の2.6倍である。

この差分を生む要因

中企庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」5 p.24には、以下の記述がある。

案件規模が小さくなると最低手数料が適用されるため、手数料率は高くなる傾向にある。

報酬額はレーマン計算額と最低手数料のうち高いほうが適用されるのが一般的な業界慣行である。最低手数料の業界中央値は500万円(機関により200〜2,000万円)であり、この金額が中規模帯の実効料率を押し上げている。

譲渡価額が大きくなるにつれてレーマン計算額が最低手数料を上回り、実効料率がレーマン料率に収斂していく。中企庁公式が公表した階層別の実効料率は、この構造を反映している。

要点

  • レーマン料率5%で計算した譲渡価額1.5億円の報酬は750万円
  • 実際の実効料率13.3%なら報酬は約2,000万円、レーマン理論値との差は約1,250万円
  • 最低手数料が中規模帯でも実効料率を押し上げている
  • 譲渡価額5億円超で初めてレーマン料率に収斂する

最低手数料の分布——中企庁とJMIの両データが示す構造

中企庁アンケート387者が示す分布

中小企業庁「M&A支援機関登録制度 実績報告等について」1 p.20-21では、最低手数料を設定している385者のうち金額回答者374者の分布が公表されている。

  • 全体中央値:500万円
  • 機関種別の中央値:
  • 仲介(n=136):500万円
  • FA(n=44):500万円
  • 金融機関(n=84):1,000万円
  • 税理士(n=31):200万円
  • 公認会計士(n=10):200万円
  • 中小企業診断士(n=5):300万円
  • 経営コンサル(n=33):300万円

JMIリーグテーブル829社の完全集計

JMIリーグテーブル2024年度6は、中企庁登録支援機関のうち2024年度に成約実績のある829社を対象とする独自データセットである。各機関の4コンテクスト(FA譲渡/FA譲受/仲介譲渡/仲介譲受)で個別に最低手数料を集計した結果(延べn=2,746)、中央値は500万円で中企庁アンケートと一致している。

機関種別の中央値は以下のとおりである。

  • 仲介(n=1,093):1,000万円
  • コンサル(n=392):300万円
  • FA(n=383):500万円
  • 地方銀行(n=228):1,000万円
  • 税理士(n=214):200万円
  • 中小企業診断士(n=109):200万円
  • 信金・信組(n=104):400万円
  • 公認会計士(n=79):500万円
  • 金融機関その他(n=39):2,000万円
  • 都市銀行(n=7):2,000万円

両データから見える観察

全体中央値は両データで500万円で一致する。機関種別では、地方銀行の中央値1,000万円、士業系の200〜300万円という水準が両データで一致している。

一方、仲介の中央値は中企庁アンケート500万円に対してJMI集計で1,000万円と差がある。両データの性質差——中企庁は任意回答136者の自己申告、JMIは全成約実績機関の4コンテクスト延べ集計——による可能性が考えられる。JMIの集計には、譲渡側と譲受側で異なる金額を設定している機関の値が反映されている。

機関種別では、最低手数料が5倍の幅(士業系200万円〜都市銀行2,000万円)で分布している。最低手数料は、機関の業態と扱う案件規模を反映していると解釈できる。

最低手数料の機関種別分布——中企庁アンケートとJMIリーグテーブルの対比
Fig.2 最低手数料の機関種別分布——中企庁アンケート387者とJMIリーグテーブル829社の対比

要点

  • 最低手数料の全体中央値は中企庁とJMIで一致(500万円)
  • 機関種別では5倍の幅(士業系200万円〜都市銀行2,000万円)
  • 仲介の中央値は中企庁500万円とJMI1,000万円で差、両データの性質差による可能性
  • 最低手数料は機関の業態・扱う案件規模を反映している

モデルケース試算——譲渡価額1.5億円と5億円の2本並列

譲渡価額帯で構造が変わる様子を、2つのモデルケースで確認する。

モデルA:譲渡価額1.5億円(売上3〜10億クラス)

  • 譲渡価額:1.5億円
  • レーマン方式(5億以下5%)の計算額:1.5億円 × 5% = 750万円
  • 中企庁データ(1〜1.5億帯)の実効料率中央値:13.3%
  • 実効料率で計算した報酬:約2,000万円

機関別の最低手数料を最低手数料がそのまま適用された場合の計算上の参考値として並べると、以下のとおりとなる。7

  • 仲介(JMI中央値1,000万円):max(750万円, 1,000万円) = 1,000万円(6.7%)
  • 仲介(中企庁中央値500万円):max(750万円, 500万円) = 750万円(5.0%・レーマン優先)
  • FA(500万円):max(750万円, 500万円) = 750万円(5.0%・レーマン優先)
  • 地方銀行(1,000万円):max(750万円, 1,000万円) = 1,000万円(6.7%)
  • 税理士(200万円):max(750万円, 200万円) = 750万円(5.0%・レーマン優先)
  • 都市銀行(2,000万円):max(750万円, 2,000万円) = 2,000万円(13.3%)

計算上の報酬額は750万〜2,000万円の範囲で、機関種別により2.7倍の幅が生じる。

モデルB:譲渡価額5億円(売上20〜50億クラス)

  • 譲渡価額:5億円
  • レーマン方式の計算額:5億円 × 5% = 2,500万円(5億以下5%を全額適用)
  • 中企庁データ(3〜5億帯)の実効料率中央値:6.1%
  • 実効料率で計算した報酬:約3,050万円

機関別の最低手数料を同様に並べると、以下のとおりとなる。

  • 仲介(JMI中央値1,000万円):max(2,500万円, 1,000万円) = 2,500万円(5.0%・レーマン優先)
  • 仲介(中企庁中央値500万円):max(2,500万円, 500万円) = 2,500万円(5.0%・レーマン優先)
  • FA(500万円):max(2,500万円, 500万円) = 2,500万円(5.0%・レーマン優先)
  • 地方銀行(1,000万円):max(2,500万円, 1,000万円) = 2,500万円(5.0%・レーマン優先)
  • 税理士(200万円):max(2,500万円, 200万円) = 2,500万円(5.0%・レーマン優先)
  • 都市銀行(2,000万円):max(2,500万円, 2,000万円) = 2,500万円(5.0%・レーマン優先)

どの機関でもレーマン計算額2,500万円が最低手数料を上回り、計算上の報酬額はほぼ同一になる。譲渡価額5億円で最低手数料の影響は構造的にほぼ消える。

モデルケース試算——譲渡価額1.5億円と5億円の2本並列、機関別の最低手数料との関係
Fig.3 モデルケース試算(計算上の参考値)——譲渡価額1.5億円と5億円の2本並列

2つのモデルが示す構造の違い

モデルAでは機関によって計算上の報酬額が750万〜2,000万円と2.7倍の幅が生じる一方、モデルBではどの機関でもレーマン優先で2,500万円に収束する。譲渡価額5億円が、最低手数料の影響が構造的に消える境界となっている。

ただし、両ケースとも中企庁データの実効料率(A:13.3%、B:6.1%)は、計算上の参考値と実務調整を経た成約案件の水準である。実際の報酬水準は個別案件で異なる。

計算上の参考値と実務の調整

上記の計算上の参考値は、あくまで最低手数料がそのまま適用された場合の金額である。実務では、案件の性質・規模に応じて以下の調整が行われるのが一般的とされる。

  • 最低手数料の減額協議
  • 着手金・中間金・成功報酬の組み合わせによる調整
  • 案件複雑性に応じた追加報酬の設定

中企庁データの実効料率は、こうした実務調整を経た成約案件の水準である。

要点

  • モデルA(譲渡価額1.5億円):機関別の計算上の報酬額は750万〜2,000万円(2.7倍の幅)——最低手数料が効く帯
  • モデルB(譲渡価額5億円):どの機関でもレーマン計算額2,500万円が適用——レーマン優先帯
  • 譲渡価額5億円で最低手数料の影響は構造的にほぼ消える
  • 実務では減額協議・契約形態の調整が行われるため、計算上の試算そのままにはならない

中小M&Aの経営者・アドバイザーの実務的含意

「レーマン5%から」表記の解釈

中小M&A仲介・FAの提案書では「レーマン方式・5%から」の表記が多い。この5%はレーマン計算額の初期料率であり、実効料率とは異なる。実効料率はレーマン計算額と最低手数料の組み合わせで決まり、譲渡価額帯によってレーマン料率との差が大きく変わる。

譲渡予想額ごとの注意点

譲渡予想額の帯ごとに、最低手数料の影響度は異なる。

  • 譲渡予想額5,000万〜1億円:実効料率13〜17%、レーマン料率の3倍水準。最低手数料の影響が最も大きい
  • 譲渡予想額1〜3億円:実効料率8〜13%、レーマン料率の1.6〜2.6倍。最低手数料の影響が中程度
  • 譲渡予想額3〜5億円:実効料率約6%、レーマン料率+1pt程度。最低手数料の影響は小さい
  • 譲渡予想額5〜10億円:実効料率4.3%、レーマン料率に収斂。最低手数料の影響はほぼない

経営者が確認すべきこと

提案書で「レーマン方式・5%から」の表記があっても、自社の譲渡予想額での実効料率を試算依頼することが判断の前提となる。最低手数料の金額と、案件規模に応じた調整余地を合わせて確認することが必要である。

譲渡予想額が3億円以下なら、複数機関から相見積もりを取り、機関種別ごとの最低手数料水準(士業系200〜500万円、仲介・FA500〜1,000万円、地方銀行1,000万円、都市銀行2,000万円)を把握した上で比較することで、実効料率の見通しが立つ。譲渡予想額が5億円を超えるなら、最低手数料の影響は小さく、方式選択(前編で扱った基準額4類型)や業務範囲・実績で機関を選ぶ判断軸が優先される。

経営者向け・中小M&Aで確認すべきこと

  • 自社の譲渡予想額での実効料率を試算依頼する(レーマン料率ではない)
  • 譲渡予想額5,000万〜3億円の帯では、実効料率は8〜17%の範囲で機関により異なる——最低手数料が効く帯
  • 譲渡予想額5億円超の帯では、最低手数料の影響は小さく、レーマン料率に収斂する
  • 機関種別ごとの最低手数料水準(士業系は低く、金融機関は高い)を把握する
  • 複数機関から相見積もりを取り、最低手数料と調整余地を合わせて確認する

脚注


  1. 中小企業庁「M&A支援機関登録制度 実績報告等について」令和5年度調査。回答機関460者のうち、最低手数料を設定している385者の金額回答者374者を対象とした分布がp.20-21に公表されている。 

  2. 中小企業庁「M&A支援機関登録制度 登録機関を通じた中小M&Aの集計結果」2024年度版。§5.7「株式譲渡額別報酬率」の譲渡価額区分別中央値を参照。 

  3. 本稿の前編「レーマン方式の4基準——『同じレーマン』で手数料が2倍動く構造」を参照。 

  4. 譲渡価額500〜1,000万円帯のマイクロM&Aはプラットフォーム系が主戦場となる別の市場セグメントであり、中小M&A主流帯とは異なる構造を持つ。本稿では参考として言及するにとどめる。 

  5. 中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」2024年度。p.24に「案件規模が小さくなると最低手数料が適用されるため、手数料率は高くなる傾向にある」との公式記述がある。 

  6. JMIリーグテーブル2024年度は、中小企業庁登録M&A支援機関3,396社のうち2024年度に成約実績のある829社を対象とする独自データセット。各機関の4コンテクスト(FA譲渡/FA譲受/仲介譲渡/仲介譲受)で個別に最低手数料を集計した延べ値(n=2,746)で分析している。 

  7. モデルケースの試算は、最低手数料がそのまま適用された場合の計算上の参考値である。実務では案件特性に応じて減額協議・契約形態の調整・案件選別が行われるのが一般的で、計算上の試算そのままの金額が請求されるわけではない。中企庁データの実効料率は、こうした実務調整を経た成約案件の水準である。